暑さが本格化する時期に入り、職場の熱中症対策がますます重要になっています。
厚生労働省では、令和8年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しています。
キャンペーン期間は2026年5月1日から9月30日までで、特に7月は重点取組期間とされています。
また、2025年6月1日からは、改正労働安全衛生規則により
一定の暑熱環境で作業を行う場合の熱中症対策が強化されています。
つまり、職場の熱中症対策は、単なる「夏場の声かけ」ではなく、会社として整えるべき
安全管理・労務管理のテーマになっているということです。
中小企業の事業主の方にとっても、「うちは大丈夫」とは言い切れません。
屋外作業だけでなく、工場、倉庫、厨房、配送、清掃、介護現場などでも熱中症は起こる可能性があります。
今回は、最近の厚生労働省の情報をもとに、中小企業が職場で整えておきたい熱中症対策のポイントを解説します。
熱中症対策は「気をつけてね」だけでは足りない
これまで職場の熱中症対策というと、
「水分を取りましょう」
「無理をしないようにしましょう」
「暑い日は気をつけましょう」
といった注意喚起で済ませていた会社も多いかもしれません。
もちろん、こうした声かけも大切です。
しかし、現在の職場の熱中症対策では、それだけでは十分とはいえません。
特に問題になるのは、実際に体調不良者が出たときに、誰が、どのように対応するのかが決まっていないケースです。
たとえば、現場で社員がふらついている。
本人は「少し休めば大丈夫」と言っている。
周囲の社員も忙しく、責任者に報告してよいのか迷う。
結果として対応が遅れてしまう。
このような状況は、どの会社でも起こり得ます。
熱中症は、対応が遅れると重症化する危険があります。
だからこそ、会社として「誰に報告するのか」「どのように対応するのか」
「どのタイミングで医療機関につなぐのか」を、あらかじめ決めておく必要があります。
職場の熱中症は屋外作業だけではない
熱中症と聞くと、建設業や警備業、造園業など、屋外で働く仕事をイメージする方が多いと思います。
もちろん、炎天下での作業は熱中症リスクが高く、十分な対策が必要です。
しかし、熱中症は屋外だけで起きるものではありません。
工場内で機械の熱がこもる場所。
倉庫で空調が十分に効かない場所。
厨房で火や蒸気を使う職場。
配送中の車内や荷下ろし作業。
介護施設での入浴介助。
清掃作業やバックヤード業務。
こうした職場でも、暑さや湿度、作業負荷が重なると熱中症の危険があります。
中小企業では、現場ごとの作業環境を細かく確認できていないこともあります。
「外で働いていないから大丈夫」ではなく、「自社のどの場所・どの作業に暑さのリスクがあるのか」を確認することが第一歩です。
2025年6月から職場の熱中症対策が強化
2025年6月1日から、職場における熱中症対策が強化されています。
改正労働安全衛生規則により、熱中症を生ずるおそれのある作業を行う場合、事業者には主に次の対応が求められます。
1つ目は、報告体制を整えること。
2つ目は、対応手順を作ること。
3つ目は、関係作業者へ周知すること。
つまり、会社として「熱中症の疑いがあるときに、どう動くか」を決めておかなければならないということです。
これは、大企業だけの話ではありません。
中小企業であっても、対象となる暑熱環境で作業を行う場合には、会社として対応が必要です。
ここからは、中小企業が整えるべき3つのルールを見ていきましょう。
ルール1:熱中症の疑いがあるときの報告体制を決める
まず整えたいのが、報告体制です。
熱中症の疑いがある場合に、誰に、どのように報告するのかを決めておきます。
たとえば、
「本人が体調不良を感じたら、すぐ現場責任者に伝える」
「周囲の社員が異変に気づいた場合も、本人の判断を待たずに報告する」
「現場責任者が不在の場合は、事務所または管理者へ連絡する」
「休日や夜間作業の場合の連絡先も決めておく」
といった形です。
ここで大切なのは、本人からの申告だけに頼らないことです。
熱中症になると、本人が自分の状態を正しく判断できないことがあります。
「大丈夫です」と言っていても、実際には危険な状態に近づいていることもあります。
そのため、周囲の社員が異変に気づいたときに報告できる体制が必要です。
顔色が悪い。
ふらついている。
返事が遅い。
大量に汗をかいている、または汗が出ていない。
ぼーっとしている。
いつもと様子が違う。
こうしたサインに気づいた人が、すぐに報告できるようにしておきましょう。
ルール2:実際の対応手順を作る
次に必要なのが、対応手順です。
熱中症の疑いがある社員が出たときに、現場で何をするのかを決めておきます。
たとえば、次のような流れです。
作業を中止させる。
涼しい場所へ移動させる。
衣服をゆるめる。
水分・塩分を補給させる。
身体を冷やす。
一人にせず、誰かが付き添う。
症状が重い場合や改善しない場合は、医療機関や救急につなぐ。
このような基本的な流れを、会社の実情に合わせて整理しておくことが大切です。
特に中小企業では、「現場の人がその場で判断する」という運用になりがちです。
しかし、いざというときは誰でも慌てます。
その場の判断に頼るのではなく、あらかじめ手順を決めておくことで、対応の遅れを防ぎやすくなります。
難しいマニュアルを作る必要はありません。
A4用紙1枚のフロー図や、チェックリストでも十分です。
大切なのは、現場で実際に使える形にすることです。
ルール3:決めた内容を社員へ周知する
報告体制や対応手順を作っても、社員が知らなければ意味がありません。
そのため、関係する社員への周知が重要です。
朝礼で説明する。
休憩室や作業場に掲示する。
社内チャットやメールで共有する。
チェックリストを配布する。
新しく入った社員にも説明する。
パート・アルバイト・短期スタッフにも伝える。
こうした形で、実際に働く人へ伝えておきましょう。
特に注意したいのは、正社員以外の方への周知です。
中小企業では、パート、アルバイト、派遣社員、外国人労働者
短期スタッフなど、さまざまな人が現場で働いています。
熱中症対策は、雇用形態に関係なく必要です。
「社員には伝えたけれど、現場で作業するパートさんには伝わっていなかった」
ということがないようにしましょう。
また、外国人労働者がいる職場では、やさしい日本語や多言語資料を活用することも有効です。
WBGT値を確認し、危険な作業環境を見える化する
熱中症対策では、気温だけでなく、暑さ指数であるWBGT値の確認も重要です。
WBGT値は、気温だけでなく、湿度、日射、輻射熱なども考慮した指標です。
同じ気温でも、湿度が高い場所や風通しの悪い場所では、熱中症リスクが高くなります。
中小企業では、まず温湿度計やWBGT計を設置し、危険な時間帯や場所を見える化することから始めるとよいでしょう。
たとえば、
「午後の倉庫内は特に暑くなる」
「厨房の一部が高温になりやすい」
「屋外作業は昼前後を避ける必要がある」
「空調が届きにくい場所がある」
といったことが分かれば、作業時間の見直しや休憩場所の確保につなげやすくなります。
熱中症対策は、感覚だけで行うよりも、数値で確認することで現場への説得力が増します。
体調不良を言い出しやすい職場づくりも大切
熱中症対策で見落とされがちなのが、体調不良を言い出しやすい雰囲気づくりです。
どれだけルールを整えても、社員が「具合が悪い」と言えない職場では、早期発見が遅れてしまいます。
忙しい現場では、
「自分だけ休むと迷惑がかかる」
「この程度で言うのは申し訳ない」
「責任者に怒られるかもしれない」
「周りに弱いと思われたくない」
と考えて、無理をしてしまう人もいます。
しかし、熱中症は我慢してよくなるものではありません。
事業主や管理者は、日頃から「体調が悪いときは早めに言っていい」
というメッセージを出しておくことが大切です。
朝礼で一言伝えるだけでも、現場の空気は変わります。
「無理をしないでください」ではなく、
「少しでも異変があれば、すぐに責任者へ伝えてください」
「周りの人も、様子がおかしいと思ったら声をかけてください」
「早めに休むことは迷惑ではなく、安全のために必要な行動です」
と具体的に伝えることが重要です。
熱中症対策は労災防止だけでなく人材定着にもつながる
職場で熱中症が発生した場合、労災につながる可能性があります。
また、会社が十分な対策をしていなかった場合、社員や家族からの信頼を失うことにもなりかねません。
中小企業にとって、社員一人ひとりは大切な戦力です。
一人が長期離脱すれば、現場全体に大きな影響が出ます。
だからこそ、熱中症対策は「事故を防ぐため」だけでなく、「社員に安心して働いてもらうため」の取り組みでもあります。
会社が暑さ対策にきちんと取り組んでいると、社員は「自分たちのことを考えてくれている」と感じやすくなります。
これは、人材定着にもつながります。
採用が難しい時代だからこそ、今いる社員に安心して働き続けてもらうことが重要です。
熱中症対策も、そのための大切な労務管理の一つです。
中小企業が今すぐ確認したいチェックポイント
最後に、中小企業が今すぐ確認しておきたいポイントを整理します。
職場内に暑さのリスクが高い場所はないか。
屋外作業だけでなく、工場、倉庫、厨房、配送、介護、清掃などの現場も確認しているか。
熱中症の疑いがある場合の報告先は決まっているか。
現場責任者が不在の場合の連絡先は決まっているか。
作業を中止する基準や判断の流れは決まっているか。
涼しい休憩場所は確保されているか。
水分・塩分を補給できる環境はあるか。
体調不良者を一人にしないルールがあるか。
必要に応じて医療機関や救急につなぐ手順は決まっているか。
パート、アルバイト、短期スタッフにも周知しているか。
すべてを一度に完璧に整える必要はありません。
まずは、自社の現場で起こりそうな場面を想定し、「誰が、何を、どの順番で行うのか」を決めることから始めましょう。
まとめ:熱中症対策は現場任せにしない
職場の熱中症対策は、現場の注意力だけに頼るものではありません。
会社として、報告体制を決めること。
対応手順を作ること。
関係者へ周知すること。
この3つを整えることが重要です。
特に中小企業では、社長や現場責任者の一声で、職場の意識が大きく変わります。
「暑いから気をつけて」だけで終わらせるのではなく、
「具合が悪いときは誰に言うのか」
「誰が対応するのか」
「どのタイミングで病院につなぐのか」
ここまで決めておくことが、社員の命と会社を守ることにつながります。
熱中症対策は、特別な会社だけが取り組むものではありません。
人を雇うすべての会社に関係する、安全管理・労務管理の基本です。
今年の夏は、自社の熱中症対策を「注意喚起」から「職場ルール」へ一歩進めてみてはいかがでしょうか。
出典:
厚生労働省「令和8年 STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」
厚生労働省・各都道府県労働局「職場における熱中症対策の強化について」

