最近、中小企業の事業主の方からも「退職代行から連絡が来たら、どう対応すればよいですか」という相談を聞くことが増えています。
ある日突然、本人ではなく退職代行業者から電話やメールが届く。
「本人は本日付で退職を希望しています」
「本人への連絡は控えてください」
「貸与物は郵送します」
「有給休暇を消化したいとのことです」
このような連絡が来ると、会社としては戸惑うと思います。
「本人から直接話がないのは納得できない」
「本当に本人の意思なのか」
「引継ぎはどうするのか」
「有給休暇や退職日はどう扱えばよいのか」
「この業者と話をしてよいのか」
このように、確認したいことが一気に出てきます。
ただ、ここで感情的に対応してしまうと、トラブルが大きくなることがあります。
退職代行から連絡が来たときに大切なのは、まず落ち着いて事実を確認することです。
退職そのものの扱い、本人の意思確認、退職日、有給休暇、貸与物、社会保険や雇用保険の手続きなどを、一つずつ整理して対応していく必要があります。
【退職代行からの連絡を無視してよいわけではない】
退職代行から連絡が来ると、「本人から直接言ってこないなら認めない」と考えたくなるかもしれません。
気持ちとしては分かります。
特に中小企業では、社長や上司が社員と近い距離で働いていることも多く、「最後くらい直接話してほしかった」と感じることもあるでしょう。
ただ、退職の意思表示そのものは、会社として確認すべき重要な連絡です。
退職代行を通じて連絡が来たからといって、何も対応しないまま放置するのはおすすめできません。
まずは、次の点を確認しましょう。
誰から連絡が来ているのか。
本人の氏名、所属、連絡内容は明確か。
退職希望日はいつか。
本人の意思に基づく連絡であることを示す資料はあるか。
連絡してきた相手は、一般の退職代行業者か、労働組合か、弁護士か。
有給休暇、未払い賃金、退職金、損害賠償などの交渉を求めているのか。
まずは、このあたりを冷静に整理することが大切です。
【一般の退職代行業者と交渉してよいかは慎重に考える】
退職代行と一口にいっても、運営主体はさまざまです。
一般の民間業者の場合もあれば、労働組合を名乗るケース、弁護士が対応するケースもあります。
ここで注意したいのは、一般の退職代行業者ができることには限界があるという点です。
本人の退職意思を会社へ伝えるだけであれば、いわゆる「使者」としての連絡にとどまる場合があります。
一方で、退職日をめぐる交渉、有給休暇の扱い、未払い残業代、退職金、損害賠償、解決金など、法律的な問題について本人に代わって交渉するとなると、弁護士法上の問題が生じる可能性があります。
会社側としても、相手が一般業者なのか、労働組合なのか、弁護士なのかを確認しないまま、何となく交渉を進めるのは避けた方がよいでしょう。
特に金銭的な請求や法的な主張が出てきた場合は、会社だけで判断せず、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
【まず本人の退職意思をどう確認するか】
退職代行から連絡が来た場合、会社として気になるのは「本当に本人の意思なのか」という点です。
できれば本人から退職届を提出してもらうのが望ましいです。
ただし、本人が会社と直接連絡を取りたくないと言っている場合もあります。
その場合は、退職代行を通じて退職届を郵送してもらう、本人名義の書面を提出してもらうなど、記録に残る形で確認する方法が考えられます。
会社としては、少なくとも次のような内容を確認しておきたいところです。
退職する意思があること。
退職希望日。
有給休暇を取得する希望があるか。
貸与物の返却方法。
私物の取扱い。
退職後の書類送付先。
社会保険や雇用保険の手続きに必要な連絡先。
口頭だけで済ませると、後から「言った・言わない」になりやすくなります。
メールや書面など、記録に残る形でやり取りすることが大切です。
【退職日は就業規則だけで決められるわけではない】
就業規則に「退職する場合は1か月前までに申し出ること」と書いている会社は多いと思います。
もちろん、会社として引継ぎや人員調整のために、早めの申出を求めること自体は自然です。
ただし、期間の定めのない雇用契約の場合、民法では、原則として解約の申入れから2週間を経過することで雇用が終了するとされています。
そのため、就業規則に1か月前と書いてあるからといって、常に本人を1か月間働かせ続けられるとは限りません。
ここは誤解が起きやすいところです。
会社としては、就業規則の内容を確認しつつ、法律上のルールも踏まえて退職日を整理する必要があります。
退職日をめぐって争いになりそうな場合は、早めに専門家へ相談することが大切です。
【有給休暇の申請があった場合】
退職代行からの連絡で多いのが、有給休暇の消化です。
「退職日まで有給休暇を取得したい」
「残っている有給をすべて使いたい」
このような連絡が来ることがあります。
年次有給休暇は、要件を満たす労働者に認められた権利です。
退職予定者であっても、残日数があり、取得できる期間がある場合には、会社として慎重に対応する必要があります。
「退職代行を使ったから有給は認めない」
「引継ぎをしないなら有給は使わせない」
このような対応は、トラブルにつながる可能性があります。
もちろん、業務の引継ぎが必要なこともあります。
ただ、有給休暇の取得と引継ぎの問題は、分けて考える必要があります。
現実的には、出勤が見込めない場合も多いため、書面やデータで引継ぎ内容を提出してもらう、貸与物の返却とあわせて必要資料を送ってもらうなど、できる範囲で対応を考えることになります。
【貸与物と会社資料の返却を忘れない】
退職代行対応で忘れやすいのが、貸与物の返却です。
退職の意思や有給休暇の話に気を取られていると、会社の備品や情報管理が後回しになることがあります。
退職時には、次のようなものを確認しましょう。
健康保険証。
社員証。
制服。
名刺。
会社の鍵。
パソコン。
スマートフォン。
タブレット。
社用車関係のもの。
入館証。
会社資料。
顧客情報。
業務データ。
USBメモリなどの記録媒体。
特に注意したいのは、会社情報や顧客情報の持ち出しです。
退職者を疑うという意味ではなく、会社として情報管理の手続きをきちんと行うことが大切です。
返却方法は、郵送でも構いません。
ただし、何を、いつまでに、どの住所へ返却してもらうのかを明確に伝えましょう。
返却物の一覧を作って送ると、確認漏れを防ぎやすくなります。
【退職手続きは通常どおり進める】
退職代行を使われた場合でも、退職手続きそのものは通常どおり進める必要があります。
たとえば、次のような手続きです。
最終給与の計算。
未払い賃金の確認。
社会保険の資格喪失手続き。
雇用保険の資格喪失手続き。
離職票の要否確認。
源泉徴収票の交付。
住民税の取扱い確認。
退職証明書の請求があった場合の対応。
会社として感情的には納得できない部分があっても、必要な手続きは進めなければなりません。
ここで対応が遅れると、退職者とのトラブルだけでなく、行政手続き上の問題にもつながります。
特に離職票については、本人が希望する場合があります。
退職代行を通じて希望が伝えられることもあるため、必要書類の送付先などを確認しておきましょう。
【本人へ直接連絡してよいか】
退職代行から「本人へ直接連絡しないでください」と言われることがあります。
会社としては、業務引継ぎや貸与物の返却など、本人に確認したいことがあると思います。
ただ、無理に本人へ何度も電話をしたり、自宅へ訪問したりする対応は避けた方がよいでしょう。
状況によっては、本人が強い不安やストレスを感じている可能性もあります。
会社として必要な連絡がある場合は、まずは退職代行側へ書面やメールで伝え、記録を残す形で進めるのが無難です。
どうしても本人確認が必要な場合は、連絡の目的、内容、方法を慎重に考える必要があります。
特に、退職代行の背景にハラスメントや長時間労働などの問題がある可能性もあります。
本人を責めるような連絡にならないよう注意しましょう。
【退職時のルールを就業規則で整理する】
退職代行への対応を減らすためにも、就業規則や社内ルールを整えておくことは重要です。
たとえば、次のような内容です。
退職の申出方法。
退職届の提出方法。
退職希望日の取扱い。
有給休暇の申請方法。
引継ぎの進め方。
貸与物の返却方法。
私物の取扱い。
退職後の書類送付方法。
会社情報や顧客情報の取扱い。
これらを明確にしておくことで、退職時の混乱を減らすことができます。
もちろん、就業規則に書いてあるからといって、すべて会社の思い通りにできるわけではありません。
法律上のルールに反する内容は認められない場合があります。
ただ、会社として基本的な流れを決めておくことで、いざ退職代行から連絡が来たときも、慌てず対応しやすくなります。
【退職の引き止め方にも注意】
中小企業では、一人辞めるだけでも現場に大きな影響が出ます。
そのため、退職の申出があると、強く引き止めたくなることもあるでしょう。
ただ、引き止め方には注意が必要です。
「辞めるなら損害賠償を請求する」
「代わりを連れてくるまで辞めさせない」
「今辞めたら迷惑だ」
「退職届は受け取らない」
「有給は使わせない」
このような言い方は、トラブルにつながりやすくなります。
結果として、本人が会社と直接話すことを避け、退職代行を使うきっかけになることもあります。
退職を申し出た社員に対しては、まず意思を確認し、退職日や引継ぎについて冷静に話し合うことが大切です。
会社として困る事情がある場合も、業務上必要な範囲で相談する姿勢が望ましいです。
【管理者の対応を見直す】
退職代行を使われる背景には、直属の上司との関係が影響していることもあります。
社員が退職を言い出すとき、最初に相談する相手は上司であることが多いです。
その上司が日頃から話しにくい雰囲気だったり、退職の相談に強く反応したりすると、社員は直接話すことを避けてしまいます。
管理者には、退職の相談を受けたときの基本対応を伝えておきましょう。
まず本人の話を聞く。
その場で怒らない。
退職理由を無理に問い詰めない。
会社への不満が出ても感情的にならない。
退職日や引継ぎについて冷静に確認する。
有給休暇や手続きについて総務へつなぐ。
中小企業では、社長自身がこの役割を担うこともあります。
社長や管理者の対応が変わるだけで、退職時のトラブルはかなり減らせます。
【退職代行対応で確認したいチェックポイント】
退職代行から連絡が来たときに確認したいポイントを整理します。
連絡してきた相手は誰か。
一般業者、労働組合、弁護士のどれに当たるのか。
本人の退職意思を確認できる書面はあるか。
退職希望日はいつか。
雇用契約は期間の定めがあるか、ないか。
有給休暇の残日数はあるか。
貸与物や会社資料の返却方法は決まっているか。
最終給与の計算に必要な情報はそろっているか。
離職票や退職証明書の希望はあるか。
未払い賃金や残業代などの請求が出ていないか。
相手方が交渉に踏み込んでいないか。
必要に応じて弁護士などに相談する体制があるか。
社内の退職手続きルールは整っているか。
退職代行対応は、感情ではなく手順で進めることが大切です。
まずは事実確認、次に退職手続き、必要に応じて専門家への相談という流れを作っておきましょう。
【さいごに】
退職代行から連絡が来ると、会社としては驚きます。
特に中小企業では、社員との距離が近い分、「なぜ直接言ってくれなかったのか」と感じることもあるでしょう。
ただ、その感情のまま対応してしまうと、退職日、有給休暇、未払い賃金、貸与物、社会保険手続きなど、さまざまな場面でトラブルが広がる可能性があります。
大切なのは、まず冷静に確認することです。
本人の退職意思は確認できるか。
連絡してきた相手は誰か。
退職日や有給休暇はどう扱うか。
貸与物や会社資料はどう返却してもらうか。
必要な退職手続きは何か。
交渉が必要な内容が出ている場合、誰に相談すべきか。
このように一つずつ整理していくことが大切です。
退職代行への対応は、単なる退職手続きの問題ではありません。
社員が退職を言い出しやすい職場か。
退職時のルールが整っているか。
有給休暇や引継ぎの扱いが明確か。
管理者が感情的に対応していないか。
こうした職場の状態を見直すきっかけにもなります。
退職を完全になくすことはできません。
しかし、退職時のトラブルを減らすことはできます。
そのためにも、就業規則、退職届、貸与物返却、有給休暇、社会保険手続きなど、退職時の流れを一度整理しておきましょう。
「退職代行から連絡が来てから考える」のではなく、普段から退職対応のルールを整えておくことが、中小企業にとって大切な労務管理です。

