2026年度の最低賃金はどうなる?全国平均1,176円の目安と中小企業が今から確認すべきこと
2026年度の最低賃金について、厚生労働省から引き上げ額の目安が示されました。
今回の目安どおりに各都道府県で引き上げが行われた場合、地域別最低賃金の全国加重平均は1,176円となります。
中小企業の事業主の方にとって気になるのは、
「自社の人件費はどのくらい増えるのか」
「誰の給与を見直せばいいのか」
「正社員も確認したほうがいいのか」
といった点ではないでしょうか。
最低賃金というと、パートやアルバイトの時給だけを確認すればよいと思われがちです。
しかし実際には、月給制の正社員、既存社員との給与バランス、求人時の賃金、人件費全体にも影響する可能性があります。
正式な最低賃金が決まってから慌てるのではなく、今の段階から自社の給与を確認しておくことが大切です。
今回は、2026年度の最低賃金の動きと、中小企業が今から確認しておきたいポイントを社会保険労務士の視点から解説します。
【2026年度の最低賃金は全国平均1,176円の目安】
2026年7月28日、中央最低賃金審議会は、令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安について答申を取りまとめました。
引き上げ額の目安は次のとおりです。
Aランク 54円
Bランク 56円
Cランク 56円
Aランクは埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪の6都府県です。
Bランクは28道府県、Cランクは13県となっています。
この目安どおりにすべての都道府県で引き上げが行われた場合、全国加重平均は1,176円となります。
前年の全国加重平均から55円、率にすると4.9%の引き上げとなる計算です。
ただし、ここで注意したいのは、「全国の最低賃金が1,176円に決まった」という意味ではないことです。
1,176円は、今回示された目安どおりに各都道府県で引き上げられた場合の全国加重平均です。
実際の最低賃金額は、今後、都道府県ごとに決まっていきます。
【自社に適用される最低賃金を確認する】
地域別最低賃金は、全国一律ではありません。
中央最低賃金審議会が示した目安を参考に、今後、各地方最低賃金審議会で審議が行われます。
その後、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定します。
そのため、中小企業の事業主が実際に確認しなければならないのは、自社の事業場に適用される最低賃金です。
たとえば、本社が東京都にあり、別の県に店舗や営業所がある会社の場合、すべて東京都の最低賃金で判断するわけではありません。
原則として、それぞれの事業場がある都道府県の最低賃金を確認します。
複数の都道府県に店舗や営業所がある会社は、それぞれ確認しておいたほうがよいでしょう。
また、派遣労働者については、派遣先の地域別最低賃金が適用されます。
正式な金額や発効日は今後決まりますので、自社が関係する都道府県の最新情報を確認するようにしましょう。
【最低賃金の引き上げで人件費はいくら増えるのか】
事業主として、やはり気になるのは人件費への影響だと思います。
仮に、時給を55円引き上げる必要がある従業員がいるとして計算してみます。
1日8時間、月20日勤務する場合、
55円 × 8時間 × 20日
=月8,800円
1人あたり月8,800円の増加です。
同じ条件の従業員が10人いれば、月8万8,000円。
年間では105万6,000円となります。
「時給が50円程度上がるだけ」と考えると、それほど大きな金額には感じないかもしれません。
しかし、対象人数を掛け、さらに年間で計算すると、会社にとっては無視できない金額になることがあります。
また、賃金が上がることで標準報酬月額が変わるなど、条件によっては社会保険料の会社負担に影響する可能性もあります。
最低賃金への対応を考えるときは、単純な時給の差額だけではなく、年間の人件費全体で試算しておくことが大切です。
【最低賃金はパートやアルバイトだけの話ではない】
最低賃金というと、
「うちはパートの時給が最低賃金より高いから大丈夫」
と思われる事業主の方もいます。
ただし、最低賃金はパートやアルバイトだけに適用される制度ではありません。
原則として、正社員、契約社員、パート、アルバイトなど、雇用形態にかかわらず適用されます。
特に見落としやすいのが、月給制の正社員です。
時給制であれば、現在の時給と最低賃金を比べればすぐに確認できます。
一方、月給制の場合は、月給を時間額に換算して確認する必要があります。
「正社員だから最低賃金は関係ない」ということではありません。
最低賃金の引き上げが続くことで、これまで余裕があった正社員の給与が最低賃金に近づいているケースもあります。
この機会に、パートやアルバイトだけではなく、正社員も含めて確認しておくと安心です。
【月給制の正社員は時間額に換算して確認する】
月給制の場合、基本的には最低賃金の対象となる月給を1か月平均所定労働時間で割り、時間額に換算して最低賃金と比較します。
ここで注意したいのが、「給与明細の総支給額をそのまま使えばいいわけではない」という点です。
最低賃金との比較に含めない賃金があります。
たとえば、賞与、時間外労働に対する割増賃金、休日労働に対する割増賃金、通勤手当、家族手当などです。
そのため、「総支給額は十分高いから問題ない」と判断するのは注意が必要です。
基本給がそれほど高くなく、通勤手当や家族手当、残業代などが多い給与体系では、実際に最低賃金の計算対象となる賃金を確認してみる必要があります。
給与体系が複雑な会社ほど、一度整理しておいたほうがよいでしょう。
【最低賃金の人だけ給与を上げると賃金バランスが崩れることも】
最低賃金への対応で、実務上意外と悩ましいのが社内の賃金バランスです。
たとえば、
入社したばかりの社員 時給換算1,170円
経験のある社員 時給換算1,200円
だったとします。
最低賃金への対応で新人の給与だけを引き上げた結果、ベテラン社員との差がほとんどなくなってしまうことがあります。
法律上の最低賃金をクリアしていても、社員から見れば、
「長く働いているのに、新人と給与がほとんど変わらない」
という不満につながる可能性があります。
最低賃金の改定時には、最低賃金を下回る社員だけを見ればよいとは限りません。
勤続年数、仕事内容、役割、責任、能力、資格などの違いが、給与にきちんと反映されているかも確認しておきたいところです。
最低賃金の引き上げをきっかけに、賃金表そのものを見直したほうがよい会社もあります。
【最低賃金の引き上げは採用にも影響する】
もう一つ考えておきたいのが採用です。
最低賃金が引き上げられれば、求人票に掲載している給与についても確認する必要があります。
ただし、「最低賃金以上だから採用できる」とは限りません。
たとえば、周辺企業が時給1,300円で求人を出している中、自社だけ最低賃金に近い金額で募集していれば、応募が集まりにくくなる可能性があります。
採用では、「法律上いくら必要か」だけではなく、「地域の採用相場ではいくら必要なのか」という視点も大切です。
一方で、求人のために新しく入る人の給与だけを大きく上げると、今度は既存社員との給与バランスが問題になることがあります。
最低賃金が上がるタイミングでは、求人時の給与、既存社員の給与、経験者の給与、昇給の仕組みも一緒に確認しておくとよいでしょう。
【中小企業が今から確認しておきたいこと】
正式な最低賃金が決まる前でも、準備できることはあります。
まず確認したいのは、最低賃金に近い従業員が何人いるかです。
現在の最低賃金ギリギリの人だけではなく、少し上の水準まで確認しておきましょう。
次に、月給制の正社員や契約社員も時間額に換算して確認します。
パートやアルバイトだけを見て終わらせないことが大切です。
そして、人件費がどのくらい増えるのかを試算します。
1人あたりでは小さな金額でも、対象人数と12か月分を掛けると、年間では大きな金額になることがあります。
給与を変更する場合は、雇用契約書、労働条件通知書、賃金表、求人票なども確認しておきましょう。
最後に、社内全体の賃金バランスも確認します。
新人とベテラン、一般社員と責任者、経験者と未経験者など、本来あるはずの給与差が縮まりすぎていないかを見ることも重要です。
最低賃金の改定は、「該当する人の時給だけ変更して終わり」にすると、後から別の問題が出てくることがあります。
【最低賃金への対応を単なるコスト増で終わらせない】
最低賃金の引き上げは、中小企業にとって負担の大きいテーマです。
原材料費や光熱費なども上がっている中で、人件費まで増えるとなれば、事業主として厳しいと感じるのは自然なことです。
ただ、給与を見直すタイミングだからこそ、会社の働き方を見直す機会にもできます。
たとえば、
この仕事は本当に今のやり方でなければならないのか。
無駄な残業が発生していないか。
業務を効率化できるところはないか。
社員の役割と給与が合っているか。
昇給の基準を社員に説明できるか。
こうした点を確認することも大切です。
社会保険労務士として賃金について考えるときも、「最低賃金をクリアしているか」だけで終わらせるのではなく、会社の賃金体系や働き方まで含めて見ることが大切だと感じます。
人件費が上がるのであれば、その分、生産性や社員の定着につながる仕組みも一緒に考えていきたいところです。
【まとめ:最低賃金が決まってからではなく今から準備を】
2026年度の地域別最低賃金について、中央最低賃金審議会から引き上げ額の目安が示されました。
Aランクは54円、Bランクは56円、Cランクは56円です。
この目安どおりにすべての都道府県で引き上げが行われた場合、全国加重平均は1,176円となります。
ただし、1,176円が全国一律の最低賃金になるわけではありません。
各都道府県の正式な最低賃金額や発効日は、今後の手続きを経て決定されます。
中小企業の事業主の方は、正式な金額が決まるのを待つだけではなく、パートやアルバイトの時給、正社員の月給、年間の人件費、既存社員との賃金バランス、求人時の給与、雇用契約書や賃金表を今のうちから確認しておくとよいでしょう。
最低賃金への対応は、単に時給を変更するだけの話ではありません。
採用、社員の定着、給与制度、働き方にもつながる問題です。
「最低賃金は大丈夫だと思うけれど、月給制の社員までは確認していない」
「最低賃金を上げると、既存社員との給与バランスが崩れそう」
という会社は、一度、自社の賃金一覧を確認してみることをおすすめします。
法律上の最低ラインを守ることはもちろん大切です。
そのうえで、これから人を採用し、今いる社員にも長く働いてもらえる給与制度になっているか。
2026年度の最低賃金改定を、その点まで考える機会にしてみてはいかがでしょうか。
※本記事は、2026年8月7日時点で公表されている厚生労働省等の情報をもとに作成しています。制度内容は変更される場合がありますので、最新情報は厚生労働省や各都道府県労働局等の公的情報をご確認ください。
※本文中の全国加重平均1,176円、Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円は、中央最低賃金審議会が示した目安に基づくものです。各都道府県の2026年度の最低賃金額が確定したという意味ではありません。
※特定の産業では、地域別最低賃金とは別に特定最低賃金が適用される場合があります。

