採用した社員について、
「思っていたより仕事を覚えるのが遅い」
「勤務態度に不安がある」
「社風に合わないかもしれない」
「試用期間中だから、本採用しなければよいのでは」
このように悩む中小企業の事業主の方は少なくありません。
人手不足の中でようやく採用できた人材でも、入社後にミスマッチが分かることはあります。
そのため、多くの会社では、採用後に一定期間の「試用期間」を設けています。
ただし、ここで注意したいのは、試用期間は「自由に辞めさせられる期間」ではないということです。
試用期間中であっても、労働契約は成立しています。
そのため、会社が一方的に本採用を拒否したり、解雇したりする場合には、慎重な判断が必要です。
今回は、中小企業が試用期間を設けるときに確認しておきたいポイントを、社会保険労務士の視点から整理します。
【試用期間とは何か】
試用期間とは、採用後に社員の勤務態度、能力、適性などを確認するための期間です。
会社としては、面接だけでは分からない部分を、実際の勤務を通じて確認する期間といえます。
たとえば、
仕事を覚える姿勢があるか。
基本的な勤務態度に問題がないか。
職場のルールを守れるか。
周囲と協力して働けるか。
担当業務に必要な能力があるか。
こうした点を確認するために設けられることが多いです。
ただし、試用期間を設ける場合でも、採用時には労働条件をきちんと明示する必要があります。
賃金、労働時間、休日、業務内容、就業場所などはもちろん、試用期間の有無や期間、本採用後との労働条件の違いがある場合には、その内容も分かるようにしておくことが大切です。
【試用期間中でも労働契約は成立している】
試用期間について、実務でよくある誤解が、
「試用期間中はまだ正式な社員ではない」
という考え方です。
しかし、試用期間中であっても、会社と社員の間には労働契約が成立しています。
つまり、試用期間中の社員も、会社で働く労働者です。
賃金の支払いも必要ですし、労働時間管理も必要です。
社会保険や雇用保険の加入についても、要件に該当する場合には手続きが必要になります。
「試用期間だから保険は入れなくてよい」
「本採用になってから手続きをすればよい」
と考えてしまうのは注意が必要です。
試用期間は、労働契約がまだ成立していないお試し期間ではありません。
採用したうえで、一定期間、適性を確認する期間だと考えておきましょう。
【本採用拒否は簡単にできるわけではない】
試用期間の終わりに、会社が「本採用しない」と判断することがあります。
これを一般的に、本採用拒否と呼ぶことがあります。
ただし、本採用拒否も、会社が自由にできるものではありません。
実質的には解雇に近い問題として扱われることがあります。
そのため、
「なんとなく合わない」
「社長の感覚と違った」
「期待していたほどではなかった」
というだけでは、トラブルになる可能性があります。
会社として本採用を見送るのであれば、なぜ本採用できないのかを、客観的に説明できることが大切です。
たとえば、
何度指導しても無断遅刻が続いている。
注意しても業務上必要なルールを守らない。
採用時に確認した業務を著しく遂行できない。
重大な経歴詐称が判明した。
周囲に大きな支障を与える行為が繰り返されている。
このように、具体的な事実が必要になります。
もちろん、実際に本採用拒否が有効かどうかは、事情によって判断が変わります。
だからこそ、試用期間中の対応は記録を残しながら慎重に進めることが大切です。
【試用期間中の解雇にもルールがある】
試用期間中であっても、解雇にはルールがあります。
厚生労働省は、解雇について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、労働者を辞めさせることはできないと案内しています。
これは、試用期間中だから関係ないというものではありません。
また、解雇予告にも注意が必要です。
原則として、会社が労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。
ただし、試用期間中の解雇予告については、「試みの使用期間中」の者で14日以内の場合など、一定の例外があります。
ここで注意したいのは、
「試用期間中なら、いつでも解雇予告なしでよい」
という意味ではないことです。
試用期間が14日を超えている場合や、実態として引き続き使用している場合には、解雇予告の問題が出てきます。
また、解雇予告の手続きをしていれば、どのような解雇でも有効になるわけではありません。
解雇の理由そのものが適切かどうかも、別に確認する必要があります。
【試用期間の長さはどう決めるか】
試用期間の長さについては、会社によってさまざまです。
3か月としている会社もあれば、6か月としている会社もあります。
中小企業では、昔から使っている就業規則に「試用期間は3か月」とだけ書かれていることも多いです。
試用期間を決めるときは、自社の仕事に必要な確認期間として妥当かどうかを考えることが大切です。
たとえば、簡単な業務であれば、数か月で適性を確認できることもあります。
一方で、専門性の高い仕事や、習熟に時間がかかる仕事では、一定の期間が必要になる場合もあります。
ただし、必要以上に長い試用期間は、社員の立場を不安定にするおそれがあります。
また、試用期間を延長する場合にも注意が必要です。
延長できる場合や延長期間について、就業規則や雇用契約書に何も書かれていないと、後からトラブルになることがあります。
「もう少し様子を見たいから延長する」
という対応をしたい場合でも、あらかじめルールを整えておくことが大切です。
【雇用契約書や労働条件通知書に書いておきたいこと】
試用期間を設ける場合は、雇用契約書や労働条件通知書の内容も確認しておきましょう。
特に、次のような点は明確にしておきたいところです。
試用期間があるか。
試用期間の長さ。
試用期間中の賃金。
試用期間中と本採用後で労働条件に違いがあるか。
試用期間を延長する場合があるか。
延長する場合の理由や期間。
本採用しない場合があること。
判断の基準。
ここで大切なのは、試用期間中の条件をあいまいにしないことです。
たとえば、
「試用期間中は給与が少し低い」
という会社もあります。
その場合は、試用期間中の賃金額と本採用後の賃金額を、きちんと明示しておく必要があります。
また、最低賃金を下回ることはできません。
「試用期間だから低くてもよい」ということではないため注意しましょう。
【評価基準を決めておく】
試用期間中のトラブルを防ぐためには、評価基準を決めておくことが大切です。
本採用するかどうかを、社長や上司の感覚だけで判断すると、社員から見て納得しにくいものになります。
たとえば、
勤務態度。
遅刻や欠勤の状況。
業務の習得状況。
報告・連絡・相談ができているか。
職場のルールを守っているか。
お客様や同僚への対応。
安全ルールを守っているか。
こうした項目を確認しておくと、判断しやすくなります。
もちろん、すべてを点数化する必要はありません。
ただ、何を見て本採用を判断するのかを、会社側が整理しておくことが重要です。
評価基準があると、社員にも改善点を伝えやすくなります。
【指導と面談の記録を残す】
試用期間中に問題がある場合は、早めに本人へ伝えることが大切です。
中小企業では、現場が忙しいため、
「そのうち改善するだろう」
「まだ入ったばかりだから様子を見よう」
「言いにくいから後回しにしよう」
となってしまうことがあります。
しかし、試用期間の終わりになって突然、
「本採用はできません」
と伝えると、本人にとっても納得しにくい対応になります。
問題がある場合は、できるだけ早い段階で面談を行いましょう。
何が問題なのか。
会社として何を求めているのか。
いつまでにどの程度改善してほしいのか。
会社としてどのようにサポートするのか。
こうした点を伝え、記録に残しておくことが大切です。
記録といっても、難しい書類でなくても構いません。
面談日、出席者、伝えた内容、本人の発言、今後の改善事項を残しておくだけでも、後から確認しやすくなります。
【教育や受け入れ体制も見直す】
採用後に社員がうまく定着しない場合、本人だけの問題とは限りません。
会社側の受け入れ体制に課題があることもあります。
たとえば、
仕事内容の説明が不足している。
誰に質問すればよいか分からない。
上司によって指示が違う。
教育担当者が決まっていない。
入社初日から放置されている。
求人票や面接時の説明と実際の仕事が違う。
このような状態では、新しく入った社員が力を発揮しにくくなります。
「試用期間中に見極める」という考え方は大切です。
ただし、それと同時に、会社として「育てる」「慣れてもらう」仕組みも必要です。
特に中小企業では、入社後の教育を現場任せにしていることがあります。
試用期間をうまく機能させるには、評価するだけでなく、受け入れ体制を整えることも大切です。
【試用期間中に起こりやすいトラブル】
中小企業でよくある試用期間のトラブルには、次のようなものがあります。
試用期間中だからすぐ辞めさせられると思っていた。
本採用拒否の理由を説明できない。
試用期間の定めが雇用契約書に書かれていない。
試用期間中の給与があいまい。
試用期間を延長したが、ルールがなかった。
問題を本人に伝えないまま期間満了を迎えた。
面談や指導の記録が残っていない。
求人票と実際の仕事内容が違っていた。
社会保険や雇用保険の手続きが遅れていた。
これらの多くは、採用時と試用期間中のルールがあいまいなことから起こります。
試用期間を設けるのであれば、採用前、入社時、試用期間中、期間満了時の流れを整理しておくことが重要です。
【就業規則に入れておきたい内容】
試用期間については、就業規則にも基本的なルールを入れておきましょう。
たとえば、次のような内容です。
試用期間を設けること。
試用期間の長さ。
会社が必要と認めた場合に延長することがあるか。
延長する場合の期間や理由。
試用期間中の労働条件。
本採用の判断基準。
本採用しない場合があること。
試用期間中または満了時に解雇する場合があること。
ここで注意したいのは、就業規則に書けば何でも有効になるわけではないという点です。
内容が合理的であること。
社員にきちんと周知されていること。
実際の運用がルールに合っていること。
これらも大切です。
また、雇用契約書や労働条件通知書と就業規則の内容が食い違っていると、トラブルの原因になります。
採用時の書類と就業規則は、セットで確認しておきましょう。
【中小企業が今確認したいチェックポイント】
試用期間について、中小企業が確認したいポイントを整理します。
雇用契約書や労働条件通知書に試用期間を明記しているか。
試用期間の長さが自社の業務に合っているか。
試用期間中と本採用後の労働条件の違いを明示しているか。
就業規則に試用期間の規定があるか。
試用期間を延長するルールがあるか。
本採用の判断基準を決めているか。
問題がある場合に早めに本人へ伝えているか。
面談や指導の記録を残しているか。
教育担当者や受け入れ体制を決めているか。
本採用拒否や解雇をする前に、理由と手続きを確認しているか。
社会保険や雇用保険の手続きを入社時から確認しているか。
まずは、自社の雇用契約書と就業規則を見直してみることをおすすめします。
「試用期間3か月」とだけ書かれていて、判断基準や延長ルールがない場合は、実務に合うように整えておくと安心です。
【まとめ:試用期間は見極める期間であり、自由に辞めさせる期間ではない】
試用期間は、採用後に社員の適性や能力を確認するための大切な期間です。
中小企業にとって、採用のミスマッチを防ぐためにも必要な仕組みといえます。
ただし、試用期間は「自由に辞めさせられる期間」ではありません。
試用期間中であっても労働契約は成立しており、本採用拒否や解雇には慎重な判断が必要です。
大切なのは、採用時に労働条件を明示すること。
就業規則や雇用契約書に試用期間のルールを整えること。
評価基準を決めておくこと。
問題があれば早めに伝え、指導や面談の記録を残すこと。
そして、会社側の教育や受け入れ体制も見直すことです。
「試用期間中だから大丈夫」と考えて対応すると、後から労務トラブルになることがあります。
一方で、きちんとルールを整え、試用期間中に丁寧に関わることで、社員の定着につながることもあります。
採用した人に長く働いてもらうためにも、また会社を守るためにも、自社の試用期間のルールを一度見直してみてはいかがでしょうか。
※本記事は、2026年8月7日時点で公表されている厚生労働省等の情報をもとに作成しています。制度内容や取扱いは変更される場合がありますので、最新情報は厚生労働省等の公的情報をご確認ください。
※試用期間中の本採用拒否や解雇の有効性は、雇用契約書、就業規則、勤務状況、指導内容、記録、会社の対応などによって判断が異なる場合があります。実際に本採用拒否や解雇を検討する場合は、個別事情に応じて慎重に確認することをおすすめします。

