社員の遅刻が続いている。
何度伝えても同じミスが起きる。
勤務態度が気になる。
周囲の社員から不満が出ている。
このような場面で、事業主の方や管理職の方が悩むことは少なくありません。
「どこまで注意していいのか」
「強く言うとパワハラと言われそう」
「でも、このまま放置するわけにもいかない」
そう感じることもあると思います。
社員への注意指導は、会社にとって大切な労務管理です。
ただし、伝え方を間違えると、本人との関係がこじれたり、ハラスメントと言われたり、後から「そんなことは聞いていない」とトラブルになることがあります。
今回は、会社が社員に注意指導を行うときに大切にしたい考え方と、記録の残し方について、社会保険労務士の視点からお伝えします。
【注意指導は会社に必要な対応】
社員に問題があると感じたとき、会社が何も言わずに我慢し続ける必要はありません。
遅刻が多い。
報告がない。
お客様への対応が悪い。
職場のルールを守らない。
同じミスを繰り返す。
このような状況があれば、会社として注意や指導を行うことは必要です。
むしろ、何も伝えないまま放置してしまうと、本人は何が問題なのか分からないままになります。
周囲の社員から見ても、
「あの人だけ注意されない」
「まじめにやっている人が損をしている」
という不満につながることがあります。
注意指導は、社員を責めるためだけのものではありません。
会社として求める働き方を伝え、本人に改善の機会を持ってもらうためのものです。
【感情ではなく事実を伝える】
注意指導で大切なのは、感情ではなく事実を伝えることです。
たとえば、
「やる気がない」
「態度が悪い」
「社会人としてどうかと思う」
という言い方では、本人も受け止めにくくなります。
それよりも、
「今月、始業時刻に間に合わなかった日が3回ありました」
「この報告書について、同じ入力ミスが2回続いています」
「お客様から、説明が不足していたという連絡がありました」
というように、具体的な事実を伝える方がよいでしょう。
注意指導は、相手を言い負かす場ではありません。
何が起きているのか。
会社として何を改善してほしいのか。
今後どうしてほしいのか。
ここを落ち着いて伝えることが大切です。
特に、怒りが強いときは、その場ですぐに強い言葉をぶつけない方がよい場合もあります。
一度事実を整理してから面談することで、会社側も冷静に話しやすくなります。
【パワハラを恐れて何も言えない状態にしない】
最近は、管理職の方から、
「注意するとパワハラと言われるのではないか」
という相談を受けることがあります。
たしかに、人格を否定する言葉や、必要以上に強い叱責、見せしめのような注意は避けなければなりません。
一方で、業務上必要な範囲で、相当な方法により行う指導まで、すべてパワハラになるわけではありません。
大切なのは、指導の目的と伝え方です。
業務上必要な内容か。
他の社員の前で必要以上に責めていないか。
人格ではなく行動を指摘しているか。
改善してほしい内容が具体的か。
相手に説明や弁明の機会を与えているか。
こうした点を意識すると、注意指導は行いやすくなります。
「パワハラが怖いから何も言わない」という状態になると、職場の秩序も守れません。
必要なことは、冷静に、具体的に、適切な方法で伝える。
この姿勢が大切です。
【口頭注意だけで終わらせない】
注意指導でよくあるのが、口頭で何度も注意しているのに、記録が何も残っていないケースです。
社長や上司としては、
「何回も言っている」
と思っていても、本人は、
「そんなに大きな問題だとは思っていなかった」
「一度軽く言われただけです」
と受け止めていることがあります。
後からトラブルになったとき、会社としていつ、何を、どのように伝えたのかが分からないと、対応が難しくなります。
だからこそ、注意指導をしたときは、簡単でもよいので記録を残しておくことが大切です。
記録する内容は、難しいものでなくて構いません。
面談日。
出席者。
問題となった事実。
本人に伝えた内容。
本人の説明。
今後の改善事項。
次回確認する時期。
このような内容を残しておくと、後から振り返りやすくなります。
記録は、社員を追い詰めるためのものではありません。
会社として丁寧に対応したことを残すためのものです。
【改善の機会をつくる】
注意指導をするときは、単に「直してください」で終わらせないことも大切です。
本人に何を改善してほしいのかを、できるだけ具体的に伝えましょう。
たとえば、遅刻が多い社員であれば、
「始業時刻の5分前には席に着けるようにしてください」
報告が遅い社員であれば、
「お客様対応が終わったら、その日のうちに上司へ報告してください」
ミスが続いている社員であれば、
「提出前にチェックリストで確認してください」
というように、行動に落とし込むと分かりやすくなります。
また、会社側にもできる支援があるか確認しましょう。
仕事の進め方が分からないのか。
業務量が多すぎるのか。
教育が不足しているのか。
体調面の問題があるのか。
本人だけを責めるのではなく、改善できる環境があるかを見ることも必要です。
注意指導は、改善してもらうための入り口です。
言いっぱなしにせず、一定期間後に状況を確認することが大切です。
【就業規則や社内ルールとつなげる】
注意指導を行うときは、就業規則や社内ルールとのつながりも確認しておきましょう。
会社には、服務規律、勤怠、秘密保持、ハラスメント防止、懲戒などのルールがあります。
しかし、ルールが就業規則に書かれていても、社員に周知されていなければ、実務では使いにくくなります。
「会社ではこういうルールになっています」
「この行動は、就業規則上も問題になります」
と説明できる状態にしておくことが大切です。
また、懲戒処分を考える場合は、特に慎重な対応が必要です。
いきなり重い処分をするのではなく、事実確認、本人への説明、改善の機会、過去の指導記録などを整理する必要があります。
感情的に処分を決めるのではなく、会社として手順を踏むことが大切です。
【会社が確認したいチェックポイント】
社員への注意指導について、確認したいポイントを整理します。
注意したい内容は、具体的な事実として整理できているか。
人格ではなく、行動や勤務状況について伝えているか。
他の社員の前で必要以上に叱責していないか。
本人の話を聞く機会を設けているか。
何を改善してほしいのかを具体的に伝えているか。
改善期限や次回確認の時期を決めているか。
注意指導の記録を残しているか。
就業規則や社内ルールと内容がつながっているか。
管理職によって指導の仕方に大きな差が出ていないか。
懲戒や退職勧奨を考える前に、十分な事実確認をしているか。
すべてを完璧に整える必要はありません。
まずは、注意指導を「その場の怒り」で終わらせず、事実、改善内容、記録の3つを意識することから始めてみてください。
【まとめ:注意指導は、会社と社員のための大切な対話】
社員への注意指導は、決して気持ちのよい仕事ではありません。
できれば言いたくない。
波風を立てたくない。
そう感じる事業主の方や管理職の方も多いと思います。
ただ、問題がある状態を放置してしまうと、本人のためにも、周囲の社員のためにも、会社のためにもなりません。
大切なのは、感情的に責めることではなく、事実をもとに伝えることです。
何が問題なのか。
会社として何を求めているのか。
本人にどう改善してほしいのか。
会社としてどのように支援するのか。
ここを丁寧に伝えることで、注意指導は単なる叱責ではなく、改善のための対話になります。
そして、その内容を記録に残しておくことで、会社としても一貫した対応がしやすくなります。
「何度も注意しているのに改善しない」
「注意したいけれど、パワハラと言われそうで不安」
「管理職によって指導の仕方がバラバラ」
このような悩みがある場合は、自社の注意指導の流れや記録の残し方を一度見直してみることをおすすめします。
社員に安心して働いてもらうためにも、会社のルールを守るためにも、注意指導は丁寧に整えておきたい労務管理の一つです。

