採用した社員から、
「求人票に書いてあった条件と違います」
「面接で聞いていた仕事内容と違います」
「残業は少ないと聞いていたのに、実際は多いです」
と言われたことはありませんか。
人手不足の中で、少しでも応募を増やしたい。
良い人に来てほしい。
他社より魅力的に見せたい。
そう考えるのは自然なことです。
ただ、求人票や求人広告に書いた内容と、実際の労働条件がズレていると、入社後の不信感につながります。
採用できたとしても、早期退職やトラブルにつながってしまえば、会社にとっても大きな損失です。
今回は、求人票と実際の条件のズレを防ぐために、会社が確認しておきたいポイントを社会保険労務士の視点からお伝えします。
【求人票は会社からの最初の説明】
求人票は、単なる募集のための広告ではありません。
応募者にとっては、その会社で働くかどうかを判断する大切な情報です。
仕事内容。
勤務地。
勤務時間。
休日。
賃金。
残業の有無。
雇用形態。
契約期間。
社会保険の加入。
試用期間。
こうした内容を見て、応募するかどうかを決めています。
そのため、求人票に書かれた内容と、面接での説明や入社後の実態が違っていると、応募者は不信感を持ちます。
「最初から正しく説明してくれればよかった」
「入社してから条件が違うと分かった」
そう感じられると、会社への信頼を取り戻すのは簡単ではありません。
求人票は、採用活動の入口であると同時に、会社と応募者の信頼関係の始まりでもあります。
【よくあるズレはここで起きる】
求人票と実際の条件のズレは、特別な会社だけで起きるものではありません。
たとえば、次のようなケースがあります。
求人票では「事務」と書いていたが、実際には営業補助や接客も多かった。
「残業少なめ」と書いていたが、繁忙期は毎日残業があった。
「勤務地は本社」としていたが、入社後に店舗応援や異動の可能性があった。
「月給25万円」と書いていたが、固定残業代を含む金額だった。
「正社員募集」と書いていたが、最初は有期契約だった。
「完全週休2日」と書いていたが、実際には休日出勤があった。
会社側に悪気がなくても、応募者から見ると「聞いていた話と違う」と感じることがあります。
特に、仕事内容、賃金、残業、休日、雇用形態は、入社後の不満につながりやすい部分です。
【良く見せようとしすぎない】
求人票を書くとき、つい良い面を強調したくなることがあります。
もちろん、会社の魅力を伝えることは大切です。
ただし、実態よりも良く見せすぎると、採用後にミスマッチが起きます。
たとえば、
「アットホームな職場です」
「未経験でも簡単です」
「残業はほとんどありません」
「自由な働き方ができます」
こうした表現はよく使われますが、受け取る側のイメージに幅があります。
実際には忙しい日もある。
覚えることが多い。
繁忙期には残業がある。
自由に見えても、守るべきルールはある。
そうであれば、最初からそのように伝えておいた方がよいです。
採用では、良く見せることよりも、正しく伝えることが大切です。
入社後に長く働いてもらうためには、会社の良いところだけでなく、現実もきちんと伝える必要があります。
【変更の可能性があるなら最初から伝える】
最近特に確認したいのが、仕事内容や勤務地の変更の範囲です。
令和6年4月1日から、労働者を募集する際に明示する労働条件として、従事すべき業務の変更の範囲、就業場所の変更の範囲、有期労働契約を更新する場合の基準や更新上限などが追加されています。
たとえば、
入社時は事務職だが、将来的に営業補助をお願いする可能性がある。
最初は本社勤務だが、近隣店舗への異動や応援の可能性がある。
有期契約で、更新回数や通算契約期間に上限を設けている。
このような場合は、求人の段階から分かるようにしておく必要があります。
「今はまだ決まっていないから書かない」
「必要になったら説明すればよい」
という対応では、後からトラブルになる可能性があります。
将来の可能性があるものは、会社としてどこまで想定しているのかを整理しておきましょう。
【面接での説明も記録しておく】
求人票だけでなく、面接での説明も大切です。
求人票には書ききれないことを、面接で補足することはよくあります。
たとえば、
繁忙期の残業。
シフトの決まり方。
休日出勤の可能性。
試用期間中の条件。
入社後に担当してもらう業務。
研修期間の流れ。
このような内容は、応募者にとって重要です。
面接で説明したつもりでも、記録が何もないと、後から確認しづらくなります。
面接担当者が複数いる場合は、説明内容が人によって変わることもあります。
できれば、面接で説明する項目を簡単に決めておき、重要な条件については記録に残しておくと安心です。
「誰が面接しても、必要なことは同じように伝える」
この仕組みがあるだけで、採用トラブルはかなり防ぎやすくなります。
【労働条件通知書と求人票をそろえる】
採用が決まったら、労働条件通知書や雇用契約書を交付します。
ここで確認したいのは、求人票、面接での説明、労働条件通知書の内容がズレていないかです。
求人票では月給25万円。
面接では「残業代込み」と説明。
労働条件通知書では基本給20万円、固定残業代5万円。
このような場合、固定残業代の内容がきちんと明示されているか、応募者が理解できる説明になっているかが重要です。
また、求人票では「勤務地は本社」と書いていたのに、労働条件通知書では「会社の定める場所」とだけ書かれている場合も注意が必要です。
言葉だけ整っていても、本人に伝わっていなければ意味がありません。
採用時には、書類を渡すだけでなく、重要な条件は口頭でも確認しておくとよいでしょう。
【会社が確認したいチェックポイント】
求人票と実際の条件について、確認したいポイントを整理します。
求人票の仕事内容は、実際に任せる業務と合っているか。
残業の有無や繁忙期の状況を正しく伝えているか。
休日やシフトの決まり方が実態と合っているか。
賃金額に固定残業代や手当が含まれる場合、内容を分かりやすく示しているか。
雇用形態が正しく書かれているか。
試用期間中の条件を明示しているか。
勤務地や業務内容の変更の可能性を書いているか。
有期契約の場合、更新基準や更新上限を確認しているか。
面接担当者によって説明内容が変わっていないか。
求人票、面接説明、労働条件通知書の内容がそろっているか。
求人票は、一度作るとそのまま使い回してしまいがちです。
ただ、仕事内容や働き方は少しずつ変わります。
募集を出す前に、今の実態と合っているか確認しておくことが大切です。
【まとめ:採用は正しく伝えることから始まる】
求人票と実際の条件が違っていると、入社後の信頼関係に大きく影響します。
応募を増やすために良く見せたつもりでも、入社後に「聞いていた話と違う」と思われれば、早期退職やトラブルにつながることがあります。
採用で大切なのは、会社を必要以上によく見せることではありません。
仕事内容、勤務時間、休日、賃金、残業、雇用形態、変更の可能性を、できるだけ正しく伝えることです。
もちろん、求人票だけですべてを説明するのは難しい部分もあります。
だからこそ、面接で補足し、採用時には労働条件通知書や雇用契約書で確認する流れが大切です。
求人票。
面接での説明。
労働条件通知書。
この3つがそろっているか。
一度見直してみるだけでも、採用後のミスマッチを減らすことにつながります。
「人が採れないから、少しでも良く見せたい」
そう感じる時期ほど、条件の伝え方は慎重にしたいところです。
正しく伝えて、それでも選んでくれる人を採用する。
その方が、結果的に長く働いてもらえる可能性が高くなります。

