社員に問題行動があったとき、会社として厳しい対応を考えることがあります。
無断欠勤が続いた。
会社のルールを守らない。
お客様に迷惑をかけた。
会社の備品を勝手に持ち出した。
ハラスメント行為があった。
このような場面では、注意指導だけでなく、懲戒処分を検討することもあるでしょう。
ただし、懲戒処分は感情で決めるものではありません。
「腹が立ったから減給する」
「見せしめとして処分する」
「社長の判断で即日懲戒解雇にする」
このような対応は、後から大きなトラブルになる可能性があります。
今回は、懲戒処分を考えるときに会社が確認しておきたい手順と就業規則の基本を、社会保険労務士の視点からお伝えします。
【懲戒処分には就業規則の根拠が必要】
懲戒処分を行うには、まず就業規則に根拠があるかを確認する必要があります。
どのような行為が懲戒の対象になるのか。
どのような処分があるのか。
けん責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇など、会社としてどの処分を定めているのか。
これらが就業規則に書かれていなければ、会社が自由に処分を決めることは難しくなります。
また、就業規則があっても、社員に周知されていなければ問題になります。
「会社のルールとして定めている」
「社員が確認できる状態にしている」
この両方が大切です。
懲戒処分を考える前に、まずは自社の就業規則を確認しましょう。
【事実確認を丁寧に行う】
懲戒処分で一番大切なのは、事実確認です。
誰が、いつ、どこで、何をしたのか。
その行為によって会社や周囲にどのような影響があったのか。
本人に故意や重大な過失があったのか。
同じような行為が過去にもあったのか。
まずは事実を整理します。
ここで注意したいのは、噂や一方の話だけで処分を決めないことです。
たとえば、ハラスメントや職場トラブルでは、相談者と相手方で言い分が違うことがあります。
会社としては、関係者への聞き取り、メールやチャットの記録、勤怠記録、防犯カメラなど、確認できる資料をできる範囲で集める必要があります。
感情的に「たぶんこうだろう」と判断しないことが大切です。
【本人の弁明の機会を設ける】
懲戒処分を検討する場合は、本人の話を聞くことも重要です。
本人には、会社が把握していない事情があるかもしれません。
事実と違う部分があるかもしれません。
説明不足や誤解がある場合もあります。
もちろん、本人の説明を聞けば処分できなくなる、という意味ではありません。
ただ、本人に弁明の機会を与えず、一方的に処分を決めると、手続き面で問題になることがあります。
面談では、
会社が把握している事実。
本人に確認したい点。
本人の説明。
反省や改善の意思。
今後の対応。
こうした内容を落ち着いて確認しましょう。
面談内容は記録に残しておくことが大切です。
【処分の重さが妥当か考える】
懲戒処分は、問題行動があったからといって、どんな重い処分でもよいわけではありません。
行為の内容に対して、処分の重さが妥当かを考える必要があります。
たとえば、軽微なミスに対していきなり懲戒解雇をするのは、通常は慎重に考えるべきです。
一方で、重大な不正や暴力、悪質なハラスメントなどであれば、重い処分を検討する場合もあります。
判断するときは、
行為の重大性。
会社への影響。
本人の立場。
故意か不注意か。
過去の注意指導の有無。
同じような事例での過去の処分。
本人の反省や改善可能性。
このような点を総合的に確認します。
懲戒処分は、会社の怒りを表すためのものではありません。
職場の秩序を守るために、必要かつ相当な範囲で行うものです。
【減給処分には上限がある】
懲戒処分として減給を行う場合は、労働基準法の制限にも注意が必要です。
減給の制裁については、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています。
つまり、会社が自由に大きな金額を差し引けるわけではありません。
「迷惑をかけたから今月の給与を半分にする」
「損害が出たから給与からまとめて引く」
このような対応は注意が必要です。
また、働かなかった時間分を控除することと、懲戒として減給することは別の話です。
給与から何かを差し引く場合は、賃金控除や減給制裁のルールを整理して考える必要があります。
【懲戒解雇は特に慎重に】
懲戒処分の中でも、懲戒解雇は最も重い処分です。
会社としては、
「もう雇い続けることはできない」
と感じる場面もあるかもしれません。
ただ、懲戒解雇は本人にとって非常に大きな不利益になります。
そのため、就業規則上の根拠、行為の重大性、手続きの妥当性、本人への弁明機会などを慎重に確認する必要があります。
また、解雇予告の除外認定が関係する場合もありますが、会社が勝手に「懲戒解雇だから予告不要」と決められるわけではありません。
懲戒解雇を検討する場合は、必ず事前に専門家へ相談することをおすすめします。
急いで処分を決めるほど、後からのリスクは高くなります。
【会社が確認したいチェックポイント】
懲戒処分について、確認したいポイントを整理します。
就業規則に懲戒事由と処分の種類が定められているか。
就業規則を社員に周知しているか。
問題となる事実を具体的に確認しているか。
関係者の話や資料を確認しているか。
本人に弁明の機会を設けているか。
面談記録を残しているか。
処分の重さが行為に対して妥当か確認しているか。
過去の同種事案とのバランスを確認しているか。
減給処分の上限を理解しているか。
懲戒解雇を検討する場合、事前に慎重な確認をしているか。
懲戒処分は、会社の判断が強く出る場面です。
だからこそ、手順と記録を丁寧に整えることが大切です。
【まとめ:懲戒処分は会社の感情ではなくルールで進める】
懲戒処分は、職場の秩序を守るために必要になることがあります。
ただし、感情的に決めてよいものではありません。
就業規則に根拠があるか。
事実確認を十分に行ったか。
本人の話を聞いたか。
処分の重さは妥当か。
記録を残しているか。
このような手順を踏むことが大切です。
問題行動がある社員に対して、会社が何もできないわけではありません。
しかし、対応を急ぎすぎたり、怒りに任せて処分したりすると、かえって会社が不利になることがあります。
「懲戒にしたい」と思う場面ほど、一度立ち止まり、就業規則と事実関係を確認することが必要です。
懲戒処分は、社員を見せしめにするためのものではありません。
会社のルールを守り、職場で安心して働ける環境を整えるための対応です。
自社の懲戒規定や運用が実態に合っているか、一度確認してみてはいかがでしょうか。
出典:
厚生労働省「モデル就業規則について」
厚生労働省「労働条件・職場環境に関するルール」
厚生労働省「就業規則に、労基法の制裁規定に反する減給制裁規定があります。有効ですか?」
厚生労働省「労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)」
e-Gov法令検索「労働基準法」
e-Gov法令検索「労働契約法」

