採用活動をしていると、応募者に内定を出したあとで事情が変わることがあります。
たとえば、
「予定していた仕事がなくなった」
「急に業績が悪化した」
「採用人数を減らしたい」
といったケースです。
また、内定後になって応募者について新たな事情が分かり、採用を見直したいと考えることもあるかもしれません。
ただし、
「まだ入社前だから、内定は自由に取り消せる」
とは限りません。
採用内定の状況によっては、すでに労働契約が成立していると判断されることがあります。
今回は、内定を出したあとに会社が確認しておきたい基本についてお伝えします。
【内定は単なる採用予定とは限りません】
採用面接が終わり、会社が応募者に内定を通知した段階では、まだ働き始めていません。
そのため、
「入社するまでは会社も応募者も自由にやめられる」
と思われることがあります。
しかし、採用内定の内容や、その後に予定されている手続きなどによっては、内定の時点ですでに労働契約が成立していると判断される場合があります。
過去の裁判例でも、内定通知のほかに労働契約締結のための特別な手続きが予定されていない場合などについて、採用内定によって労働契約が成立すると判断されています。
その場合、会社が一方的に内定を取り消すことは、実質的に解雇と同じように考える必要があります。
【会社の都合だけで自由に取り消せるわけではありません】
採用内定によって労働契約が成立している場合、内定取消しについても解雇に関するルールが問題になります。
労働契約法では、解雇について、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合には無効になるとされています。
そのため、
「採用人数が少し多かった」
「やっぱり人件費を減らしたい」
といった会社側の事情だけで、簡単に内定を取り消せるとは限りません。
内定取消しを検討するときには、なぜ取り消す必要があるのか、その理由を客観的に説明できる状態にしておく必要があります。
【内定通知書の取消事由を書けば安心?】
内定通知書や誓約書に、
「次の場合には内定を取り消すことがあります」
と記載している会社もあります。
たとえば、
●学校を卒業できなかった場合
●必要な資格を取得できなかった場合
●提出書類に重大な虚偽があった場合
●健康状態などにより業務に重大な支障がある場合
●その他、採用することが適当でない重大な事情が生じた場合
などです。
こうした取消事由をあらかじめ明示しておくことには意味があります。
ただし、書いておけばどのような場合でも自由に取り消せるわけではありません。
実際にその事情が取消しを正当化できるものなのか、内定者への影響も含めて慎重に判断する必要があります。
【経歴の虚偽が分かった場合は?】
内定後になって、履歴書や面接時の説明に事実と異なる内容があることが分かることもあります。
この場合も、
「嘘が一つあったから即取消し」
と機械的に判断するのは注意が必要です。
確認したいのは、その虚偽が採用判断にどの程度影響する内容だったかです。
たとえば、
●必要な資格を持っていると偽っていた
●実際にはない職歴を申告していた
●業務に必要な経験について重大な虚偽があった
といった場合には、採用判断への影響が大きいことがあります。
一方で、採用判断とはほとんど関係のない軽微な誤りまで同じように扱えるとは限りません。
まず本人に事情を確認し、内容を整理したうえで判断することが大切です。
【業績悪化を理由にする場合も慎重に】
内定後に会社の業績が急激に悪化することもあります。
仕事がなくなり、予定していた人員を採用することが難しくなるケースです。
会社としてはやむを得ない事情に思えるかもしれません。
ただし、経営上の理由による内定取消しについても、単に
「売上が下がったから」
というだけで当然に認められるわけではありません。
会社の経営状況や、採用を予定していた業務の状況、ほかに回避する方法がなかったかなども含めて検討する必要があります。
内定者は、ほかの会社への就職活動を終えていることもあります。
内定取消しが本人に与える影響が大きいことも踏まえて、慎重に対応しましょう。
【新卒採用の場合は別の手続きにも注意】
新規学校卒業者の採用内定を取り消す場合には、さらに注意が必要です。
新卒者について内定取消しを行う場合には、ハローワークや学校への通知が必要になる場合があります。
また、内定取消しの状況によっては、企業名が公表される制度もあります。
新卒採用の場合は、本人への連絡だけで対応を終わらせず、必要な行政手続きがないか確認しておきましょう。
【取り消す前に本人への説明を】
内定取消しを行う場合には、本人への説明も重要です。
突然、
「会社の都合で内定取消しになりました」
という連絡だけでは、本人にとって納得しにくいものです。
少なくとも、
●なぜ内定取消しが必要になったのか
●会社としてどのような検討をしたのか
●入社日の延期など別の方法は検討できないのか
●今後どのような手続きになるのか
といった内容を整理して説明することが大切です。
採用段階から丁寧にやり取りしていた会社ほど、最後の対応によって会社への印象が大きく変わります。
【解雇予告などが必要になる場合もあります】
採用内定によってすでに労働契約が成立していると認められる場合には、内定取消しについて解雇予告などの手続きが必要になることがあります。
また、内定者から内定取消しの理由について証明を求められた場合には、会社が証明書を交付しなければならない場合もあります。
「まだ1日も働いていないから関係ない」
とは限りません。
内定取消しを決定する前に、法的な手続きも含めて確認しておきましょう。
【会社が確認したいポイント】
採用内定後に事情が変わった場合には、次のような点を確認してみましょう。
●内定通知によって労働契約が成立している可能性はないか
●内定を取り消す理由を客観的に説明できるか
●内定通知書に取消事由を記載しているか
●本人に確認すべき事情がないか
●内定取消し以外の方法を検討したか
●本人に十分な説明をする準備ができているか
●解雇予告などの手続きが必要ではないか
●新卒採用の場合、ハローワークや学校への手続きが必要ではないか
採用は、内定を出したところで終わりではありません。
応募者も、内定を受けたことでほかの会社への就職活動をやめるなど、大きな判断をしています。
だからこそ、内定後の変更は慎重に進める必要があります。
【まとめ:内定を出す前の確認も大切】
内定取消しのトラブルを防ぐためには、取消しを考える段階だけでなく、内定を出す前の準備も重要です。
本当に採用する人数が決まっているか。
採用予定の仕事が継続する見込みがあるか。
採用条件に問題はないか。
内定通知書の内容は適切か。
こうした点を確認したうえで内定を出すことが大切です。
採用を急いでいると、
「まず内定を出してから考えよう」
となってしまうことがあります。
しかし、内定は会社にとっても応募者にとっても大きな意味を持ちます。
採用を決める段階から、入社までを一つの流れとして考えてみてはいかがでしょうか。
出典:
厚生労働省「採用内定者への対応について」
厚生労働省「採用内定取消しと解雇等に関する規定との関係」
厚生労働省「新規学校卒業者の採用内定取消しを行った企業名の公表について」
e-Gov法令検索「労働契約法」
e-Gov法令検索「労働基準法」

